戯曲「Answer to You」

(「朝比奈みくるの消失」を考えてみました)

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■実は異世界人には出会ってるのかも ■「改変だ!」「ほっときゃいいじゃん」

3.余談あれこれ

■実は異世界人とももう出会っているのかも(1時間平面=1世界説)

「ところで先ほどの理屈でいけば、実際時間平面を1枚進むごとに全く別の世界が広がっているといった無茶も成立し得るんですよね」
「なんだよ、さっきの世界が5分前にどーらたのことか」
「はい。……時間平面に存在する当事者たちは別の時間平面がどうなっていようとそれをいちいち知覚しないでしょう。そう、今僕たちが、一瞬前と一瞬後を直接確かめられないように」

「つまり一瞬前や後が僕たちの存在すらないような別世界である可能性は常に否定できません。そういう意味で、時間とは過去から未来へ伸びる異世界たちの連なりと言い換えてしまうことも出来るのかもしれない」
「極端だな……だからそんなことをいちいち考えて生活するほど暇じゃないっての」

「ふふ。もしも一瞬後がまったく繋がりのない別世界であるなら、その一瞬後以降からやってきた未来人は驚くでしょうね。
 『涼宮ハルヒシリーズ』にはまだ異世界人と称する存在は登場していませんが、実は未来人こそが異世界人、と言えるのかもしれませんよ」
「アホらしい。本当に無茶だな。ハルヒが集合かけて一人だけ集まらなかった奴がいると思いきや、その正体は朝比奈さんで、きっちり登場してた、ってか」
「意外な伏兵というわけですね」




「……まあ、無茶を無茶だと評せるのは、だ」
「はい?」

「過去と現在が別世界になるような無茶を無茶だと言えるのは、違う時間平面同士を見比べられる奴だけってわけだな。過去と現在を直接比較できたら無茶に気づくが、その手段がない奴にとっては無茶は存在しないのと同じなんだ。……『消失』で俺が経験したのはそういうことだろ」

「……その通りです。あなたは時空改変以前の記憶を持ち越したことで、間接的に過去と現在を比較できた、ゆえに『無茶』が起こったことに気づいた。それ以外の人々はそのすべがなかったので、自分の現時点での記憶と周辺環境を初めからそうだったものとしてただ受け入れたのです」

「あんな異世界旅行は二度と勘弁願いたいね。本気で寿命が縮んだ」
「でしょうね。僕があなたでも勘弁願いたいところですよ」
「……お前でも、そう思うもんなのか」

「何も知らないまま初めから一般人として過ごすのならば『僕』は特に何も思うところはないでしょうがね。今の僕から見ると『あちら』はちょっと物足りなさそうです。……人間なんて、そんなものですよ」
「…………ふん。そうかい」


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■「改変だ!」「ほっときゃいいじゃん」(なぜ未来人が過去に干渉する必要がある?)

「ところで、時間平面の性質を理解したところで、新たな疑問が出てきた。それがサブタイトルだ」
「そこで面倒くさがらないでください。……未来人が過去に干渉する理由ですか」
「メタを使うと話が早いんだろうが。……『時間と時間には本質的には連続性がない』んだろ?過去が消えても存在し続けられるんだろ?」
「ぶっちゃけないでください。……それはともかく、ええまあ、その通りです」
「それって極論すると現在が成り立つために過去は必要ないってことじゃないか。なら、未来人はなんで過去に干渉して監視したり既定事項が起こるように調節したりしてるんだ?過去が未来に影響を与えないならそんなことする必要はないはずだろ。朝比奈さん自身もそんなことを言ってるし」

「仮にわたしがこの時代で歴史を改変しようとしても、未来にそれは反映されません。この時間平面上のことだけで終わってしまう」(『憂鬱』P146)

「おやおや、そうきますか」
「そうきますかじゃねえよ。今までの話の流れから言ったらそうなるだろ……ん?待てよ」
「なんだ、もしかしてもうお気づきですか。もう少し焦らして楽しんでみたかったんですが」
「悪趣味なことを抜かすな。そんなことより……時間の性質の説明、但し書きつきだなそういえば。『時間と時間には【本質的には】連続性がない』。……場合によっては連続性があるってことか?」

「ふふ、当たりです。まあぶっちゃけたたとえを用いますと、僕とあなたの会話を世界の外側から眺めている人は、初めから今までの流れを連続性のないものとしては受け取らないでしょうし、『相手の話の振り』という過去があってはじめて『受け答えする』という現在があるように見えているのではないですか?『時間に連続性はない』にもかかわらず。そう、但し書きが付いていないと、矛盾してしまいます」

「またメタが出た!しかも今までで一番メタくさい発言だなおい」
「この話こそ、メタ視点を持ち出さないと理解していただけないでしょうからね。そう、メタ視点で時間の流れを俯瞰していただかないといけません」

「未来人が過去に干渉するのは、もちろん過去が『未来人にとっての現在』に影響力を持っているからです。それがどういう場合なのかを解説してみましょう」




「先ほど時間の性質の話でフィルムの内容を変えたければ変えたいフレーム全て編集しなければならない、という風にお話ししましたね」
「おう。思えばあの説明、朝比奈さんがきっちり説明してくれてるんだな。お前が解説入れるまでもなく。さっき引用したのがそうだ」
「おや、気づかれてしまいました?まあ、それはそれとして、本質的にはそうなんですが、ここには注釈を入れる必要があるのです。改変者が、自分の属する時間平面から見て過去を改変する場合、と」

「ほほう?」
「それが先ほどの朝比奈さんの『この時間平面上のことだけで終わってしまう』ということだと思います。長門さんだって1年分の過去を改変するために、きっちり365日分全部の情報に改変を施したんですしね。……時空改変などの作用がなく普通に過去から未来に時間が流れていく場合、基本的に時間平面は過去の情報を引き継ぐはずです」

「なぜかというと……映像フィルムでたとえましょう。ここに、まだ何も映っていないフィルムがあります。これをカメラに入れて回しながら、あなたが好きなものにカメラを向けたとする。映っている内容はどうなりますかね?」
「そりゃ……撮ったものが撮ったまま映るだろ」
「そうです。撮ったものが撮ったまま。カメラの中でフィルムが勝手に編集されて内容が変わったり順番がめちゃくちゃになることもない、時間の経過に沿って起こった出来事が順番通りに記録されているはずです」

「つまり時間も同じだと」
「はい。何も映っていないフィルムとは、現在時間平面から見た未来のことです。フィルムがリアルタイムで撮っているものを順繰りに記憶していくように、時間は本質的には不連続でありながらも、現在から未来に向かう時、連続性がある動きをするものなんです」

「これを裏付ける作中の事実を挙げると、……長門さんがやった『消失』での時空改変範囲、覚えていますか?少なくとも19日、20日は改変範囲に含まれていないんです。191ページで18日からさかのぼった過去だけを改変した、と明記されています。なのに改変後の設定が翌日以降に引き継がれている」
「なるほど、そういや確かに」

「あとは、未来人が実際に干渉している事実自体ですね。未来人にとって過去が自分たちの時代に無関係の事象であるならば、いたずらな手出しなどしないはずです」
「また発想の逆転か。未来人が現に干渉してる事実から考えろと」

「はい。……そうですね、たとえば人が歩く姿が映ったフィルムがあったとします。初めは踏み出す足は右足だった。これを撮り直して踏み出す足が変わったら、どこかで展開が変わるしれない。右足から踏み出していれば踏まなかったものを踏んだりといったようにね。この『踏み出す足が変わる』という一歩目が、未来人にとって『既定事項=未来人たちにとっての歴史』と実際の過去との食い違いです」

「この一歩が連鎖して積み重なっていくと、ついには自分たちのいるフレームに全く別の画が映ってしまう恐れがある。ある意味ゆるやかな時空改変の危機ですね」
「……でも時間の本質を考えると、未来人にとっては過去は変わっても自分たちは変わらないんじゃないのか?」

「これも逆に考えればいいのですよ。未来人にとって干渉すべき過去とはつまり、

 『未来人が干渉したからそうなった』という歴史が確定している場合、
 または、未来人にとってもまだ未確定であり、どう確定するかで自分たちに影響を与えうる場合です。

 前者の代表例は『笹の葉』・『消失』・『陰謀』などでしょう。未来人、つまり時間遡航を行える者がいなければ起こりえなかったエピソードが含まれている」

「『陰謀』といや、藤原みたいな奴も出てきたな。朝比奈さんの組織とは利害が対立してるっぽかったし、そういうのは『未来人にとってもまだ未確定』のパターンか」
「ええ、おそらくは。たぶんあれは、未確定な部分を互いに自陣の都合に合わせた形で確定させようとしているんでしょうね」




「……なるほど。特に必要もないのに朝比奈さんを手駒として使ってるんだったらちょっといずれ本気でカチ込みも視野に入れねばならんと思っていたんだが」」
「おや、そこに行きますか。というかむしろその点が気になっていたんですか。あなたらしいといえばあなたらしいですが」

「まあ、必要があるかないかで言ったら、朝比奈さんは恐らくはここにいること自体が彼らの既定事項を満たすのに必要なのでしょう。何も知らずに配置されている、ということも含めて。そうですね、チェスの初期陣形はこういう駒を使ってこう並べるべし、というルールを遵守しているようなものだ」

ト書き:古泉、片付けの途中で放り出してあったチェスセットを引っ張り出し、駒をいくつかチェス盤に並べる。

「だが朝比奈さんは駒じゃないし、現実はゲームでもないぜ」
「ええ、もちろん。それに……『チェスというゲームのルール』、つまり未来人のルールの中での朝比奈さんの扱いがそうだからといって、僕らがそれに付き合ってチェスのルールで遊ばなければならない義理はありませんからね。そう、『笹の葉』で僕が取られたくない駒を逃すために、胸ポケットに隠したように」
「……ふん、そうだな。必要になったら、反則だろうが何だろうが使ってでも助けるさ」

ト書き:キョン、手を伸ばしてチェス盤の上の駒を指ではじく。

「ふふ、まあ現実はゲームではないので、どんな手も究極的には『反則』ではないことになりますがね」
「屁理屈で締めるなバカ」

おまけ図解:時間の性質まとめ(新規ウィンドウ)


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■実は異世界人には出会ってるのかも ■「改変だ!」「ほっときゃいいじゃん」

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