戯曲「Answer to You」
1.『朝比奈みくる役』の消失(役と役者で理解する、3人の朝比奈さんの関係)
■女優朝比奈みくる・一人3役
問1:
『涼宮ハルヒの消失』で起こった時空改変の際、同じ時間平面上に2人いた朝比奈さんはそれぞれどこへ行き、どうなったのか?
そして改変後に現れた朝比奈さんとの関係は?
「問い1に対する回答は先ほどの通り。AとA’にあたる2人の朝比奈さんはどちらも消えました。
そして改変後に現れた朝比奈さんについてですが。前者両方が消えたからには、後に現れたA’’の朝比奈さんは、どちらの朝比奈さんとも違う、いわば第三の存在ということになります」
「そして俺はそこが分からんわけだ。なんでどっちも消えて、第三の存在なのか」
「そうですねえ、これを説明するには……こういうたとえはいかがでしょう?朝比奈さんは、女優さんです」
「なんだ?文化祭で撮った映画の話か」
「ああ、それでもいいですよ。……あの映画の中に出てきた『朝比奈ミクル』、あれ、あなたは朝比
奈さんと同一人物だと思いますか?」
「ああ?……名前がほぼ同じで本人が演じてようと、ありゃ話の中の登場人物だろ」
「その通り、では、同じように考えてください。
朝比奈さんは女優さんです。
『笹の葉』という作品で『朝比奈さんA』『朝比奈さんA’』という同一人物の役を演じました。
そしてまた、『消失』という作品で別人の役『朝比奈さんA’’』という役も演じました。
さて、このときあなたは『朝比奈さんA’’』を、『朝比奈さんA』『朝比奈さんA’』どちらかの続きだ、同一人物だ、と見なしますか?」
「……まあ、別人だと思うな。いや、だが現実と作品の役じゃ、違うだろ」
「同じですよ。少なくとも時間軸上での扱いはそう考えると分かりやすいのです。実際、改変前と改変後は設定が違ったわけでしょう?背負っている背景や人生がまるで違うのですから、朝比奈さんA’’は別人のようなものです」
「……つまり?見かけ上同一人物に見える奴がいても役者が同じだけだ、キャラクターは混同するな、と」
「はい。少なくともあなたの朝比奈さんA’’をめぐる悩みは、『役と役者』の切り分け損ねから起こっているようなものなんです。
『朝比奈さんA』と『朝比奈さんA’』を双子の女優が演じたんだと思い込んで、『朝比奈さんA’’』は姉妹のうちどっちだろう、片割れはどうなったんだろう、と悩んでいるようなものなんですよ。
どの『朝比奈さん役』も同一人物が演じたと判明している場合、これがいかにナンセンスなことかは分かるでしょう?」
「む……まあな」
「……ってことは、朝比奈さんAとA’が平等に消えたってのは?」
「そうですね……時空改変、というのはある作品の途中で突然まったく別の作品が始まったようなものと理解してください。映画で言えば、別作品のフィルム同士を途中で切ってつなぎ合わせたものを上映したイメージです」
「んで、始まった別作品には、朝比奈さんA・A’なんて役は登場しなかったと」
「そうです。なかなか飲み込みが早くて助かりますよ。そう、作中に設定されていない登場人物は、すなわち作中世界においては『存在しない』わけです。
いわば『設定が似ていて出演者も役名も同じだが、別々の作品』を説明なしに連続で見せられたようなものだったから、混乱しているだけなんですよ」
「つまり、問1への回答は、
【改変範囲内の時間軸上に存在する『未来人の朝比奈さん』が、丸ごと消えた】、
あるいは、【改変範囲内の時間平面上から『未来人の朝比奈さん』という人物が存在するという設定が削除された】
こう言い直すことも出来ますね」
■図解・朝比奈みくるの並列
「あとは、時間軸上での朝比奈さんの動きがどうなっているかについてももう少し解説したいのですが、まあ、軽く図解しておくのに留めましょう」
ト書き:古泉、席を立ちホワイトボードの前に立つ。何事か書き付けはじめた。
図解:時間軸上での朝比奈さんの動きをどう捉えたらいいの?(新規ウィンドウ)
「……軽くというわりにごっつい図解だなおい。塾の板書でも見てるみたいで頭痛がするぜ」
「いやあ、ははは。僕もまさかこんな分量になるとは」
「で、この図解についてさらに突っ込んだ解説をしようとすると、どうしても時間の性質というものに触れざるを得なくなってきます。しかしそれならば、問2の回答も残っていることですし、そちらで一緒に体系だって説明した方がいい。というわけですので、問2に進んでもよろしいでしょうか」
「おお、受けて立つぞ。問2こそ俺の灰色の脳細胞を悩ませてるからな」
「それはそれは。名探偵ご納得の解説となりますことやら。まあ、まずはご傾聴ください」