B.いたずらされる



「おや」
 いたずらされる方でいいぞ、と告げると古泉は目を丸くした。
「いいんですか? 本当に?」
「なんだその顔。俺にいたずらしたくてふっかけてきたんじゃないのか?」
「もちろんそうですが……あまりにあっさり承諾なさるので」
 なんだよ、たまに要望を叶えてやろうと思えばこれだ。あんまりがっつかれてもなんだが、もうちょっとこう、素直に喜んでみせたっていいんじゃないのか?
 ……などということをそのまま口に出したら、あとでじわじわと恥ずかしさに襲われる自信があるため、そっぽを向いて別のことを口にする。
「どうせお前がやるいたずらなんぞたかが知れてる。好きにしろ」
「その言われようは複雑ですが……」
 がくりと肩を落とした古泉が、気を取り直したように言う。
「あなたに信頼されていること、光栄に思いますよ。僕としてはあなたの性格ならいたずらされるくらいならいたずらする方を選ぶかとも思ったんですが。そちらも僕にとっては魅力的でしたしね」
 なんだ、なら今からでも俺がいたずらするコースに変更してやろうか? お前って微妙にマゾっ気あるよな。怒られても懲りるどころか嬉しそうにしてる時あるし。
「そんな気はありません。……あなたが僕を叱る時は、まず僕を思ってのことなのが分かるので、それがうれし、あいたっ」
 そんなところに感じ入る前に叱られてる点について省みて改善してほしいもんだね。思わずこいつの頭に手刀を入れた俺は間違っていないはずだ。分かってんのか? ああ?
「もちろん分かっています。あなたの愛情はよく分かっています。あなたを心配させたいわけでもありませ、いたっ!」
「もうお前黙れ!」
 それともこの恥ずかしいセリフ連呼がいたずらなのか? これじゃむしろ罰ゲームじゃねえか。思わず拳で殴った俺は間違っていない。はずだ。間違っていないはず。
「愛が痛いです……」
「まだ言うかこの野郎」
 まあさすがに今さらすぎるので認めるが、お前を心配してるのも、好きか嫌いかで言われれば好きな方に入るしむしろごにょごにょなのも事実として、とにかく、いちいちほじくり出して言うな!
「拳を構えながらすごまないでください……そこまで拒否反応を示さなくても」
「別に拒否してねえだろ。ツッコミを入れてるだけで」
 だいたい、さっきから話の腰が折れまくってるけどいいのか? いたずらはしなくても。
 俺の言葉に、古泉は顔を上げて、改めて俺の顔を覗き込む。
「もちろんしますが……いいんですか? 本当に」