おまけ。
川べりを歩きながらふと思いついて、提案してみた。
「錯覚から醒めたときのために手記でも書いて出版しとくってのはどうだ」
「ほう?」
もう冷め切ってるだろうにミルクティーをいまだにちびちび飲みながら、古泉が興味を惹いたように視線をよこしてくる。
「その手記の読者は俺たちのトンチキな日常の間接的な目撃者ってことになる。俺たちが錯覚から醒めた後にも、証拠品と目撃者が広く世間に残るだろ」
勝者気取りじゃねえが、自分たちの歴史ぐらい、好きに書いて残してもいいだろう。ついでにそれが広く長く人の記憶に残るんなら、してやったりだ。
まあ自分で読む気にはならんだろうがな。どうせ思い返したら恥ずかしい思春期の1ページになるだろうから。
俺の言葉に、我が意を得たりとばかりに古泉は明るく頷いた。
「なるほど。名案ですね。いずれお役御免になったら、そういったこともしてみようかと考えていましたよ。そのときは、」
そして、なぜか茶目っ気たっぷりにウインクをよこしながら、こんなことを言いやがった。
「あなたの手記には、あなたから見た僕の感想もぜひ書いておいてください。今から読むのが楽しみです」
「――別の機会にって、そこまで別の機会なんかい!」
思わず突っ込んだ俺は正しい。絶対にだ。
「楽しみは先延ばしするほど、きっと錯覚は醒めにくくなりますよ」
「うるせーアホ! 錯覚が醒めるのを心配する前にその冷めたミルクティーさっさと片付けちまえ」